若いこだま 1978年5月26日「ゲスト 長谷川法世」

オープニングテーマ♪「最後の夜汽車」甲斐バンド


甲斐 こんばんわ。甲斐よしひろです。今晩は、何と言うか、ゲストをお招きしています。何が”何と言うか”だ(笑)。えー、先週、風吹ジュン先生に続いての第二弾と言う感じで、えー、長谷川法世さんです。漫画家の長谷川法世さんです。こんばんわ。
法世 こんばんわ。
甲斐 よろしくお願いします。
法世 よろしく、どうも。


甲斐 えー、今日はあのー、とにかく、かなりね、思い入れが非常に強い人で僕は、どうしようかなと思ってる所があるんですが。なかなか見えてこないんですよね。あのー、敵と言いますか、法世さんが。最初、タモリ氏とあの、僕の、昔、別な放送局でやってた番組でゲストに入って貰って、それでね、あの、話を聞いて。で、もうマンガはずっといろいろまあ読んでたんですが、博多っ子純情と言う、とにかく、あれはもう大ベストセラーと言っていいと思うんですが。あれはしかしすごいなぁと思って、僕は。もう、とにかくですね、あのー、自分で博多で育ってて、二十歳の時までいて、それで歌を歌おうと思うなら、東京しかねえなあと思った所が僕はあるんですよね。で、あれはその何か東京在住している作家の人が、その、何で博多にまた目を付け直したと言うのかが、非常に不思議だったんですよ。僕、あの、心配になるんですよね。郷土の事だから。これが売れたらいいなと思うんですけども、このー、なんか博多弁のニュアンスとか、いろんな部分ってわかるのかなぁって。すごい、人の事ですが、心配してたんですよ。最初。その辺の不安ってのはなかったんですか?
法世 そうですね。あれはねえ、あのー、始めはあのー、読み切り1本だけだったんですよ。それで、やるんだったらもう博多弁で、もう、注釈もつけずに、そのままモロにやりますがって(笑)。それでやったらおもしろいって言われたんですよね。ま、それをヤル前に、あのー、何かみんなでこちらの人なんか、いろんな地方の人と飲んでて、そして、あの、何て言うか、昔の話になった訳ですよ。自分の子供の時の話。そしたら、まあ、あの、遊び方とかね、紙せっけんがどうだとかねぇ(笑)、あの、ビー玉がどうだとか言って、こっちは、俺は博多の方では、”ダルメン”とか”ダンチン”とか言ってたとかね(笑)。
甲斐 ”ダンチン”(笑)。懐かしい。”ダンチン”(笑)。”パッチン”とか、メンコの事をパッチンってね。
法世 で、そんなのでやっててね、こう、言葉が違っても、同じ事やってるしね。もう、みんなもう、興奮しちゃってね(笑)。
甲斐 (笑)”オタスケ”とか出てくる。”オタスケ”(笑)。
法世 でねぇ、これだったら、自分のこう、ちっちゃい頃の話とか、まあ、あの、自分のくにの言葉で喋っても、書いても、やってる事が同じだったらわかるんじゃないかって。
甲斐 うんうん。そうね。僕は28年生まれなんですよ。で、生まれた所がですね、清川と言う、非常に色街と言うか。
法世 そうですね。
甲斐 あそこで生まれまして、7つの頃にね、大橋って所に引っ越したんですよ。たぶん、マンガの様子見てると、法世さんは、博多二中なんじゃないかと言う、もっぱら僕等のバンドで、みんなで言ってたんですけど。
法世 ああ、そうですか。その通りなんですね。えー、で、小学校は、冷泉(れいぜん)小学校と言う、もう、櫛田(くしだ)神社のすぐ横で。
甲斐 (爆)本当に?あの、これは、あの、あれですから。日本中聞いてますから。もう絶対わかんないですね、もう(笑)。いい。(笑)。今日は二人だけでわかって、今日は喋りたい。今日はもう博多弁どんどん使おう。頭に来たもう(笑)。あのー、冷泉小学校。あのー、そうですか。
法世 あのー、本当の狭義の意味で言えば、博多のもう、博多たる所。
甲斐 もう、そうですね。ど真ん中。そうですね。中学校は博多二中で、高校も?
法世 高校は、福岡高校っちゅう・・。
甲斐 ああ、福岡高校と言うと、タモリ氏とか、小松政夫さんとか。
法世 えっとねー、小松さんは福岡高校ですね。タモリさんは、えっと、筑紫が丘(ちくしがおか)。
甲斐 ああ、筑紫が丘。みんないい所ですねー。あ、僕はですね、博多っ子純情の中に・・・、ちょっと火を点けたまま
(タバコに)話してましたが(笑)。博多っ子純情の中に出てきたですね、東、修猷館(しゅうゆうかん)、そうだっけ?東は何だっけ。東は何とか、西の・・・修猷館はどこでしたっけ。
法世 西の修猷館。
甲斐 東はどこでしたっけ。
法世 東は福岡高校。
甲斐 そうでうね。これは、今言ってるのは、福岡の4大ベスト高校の名前を言ってる訳ですが。そうですよね。言っていいですよね。はっきりね。
甲斐・法世 東の福岡高校、西の修猷館。
甲斐 北の、何ですか?
法世 北は、海だからないですね(笑)。
甲斐 ない。そして、南にですね、福岡商業って言うのが出てきたんですが、ここが僕の母校です。
甲斐・法世 (笑)
甲斐 それでは、曲に行きましょう。チューリップ、「博多っ子純情」。


♪「博多っ子純情」チューリップ


甲斐 えー、今、いろいろ話をしてたんですが、今、あのー、チューリップの「博多っ子純情」と言う曲を聴いて貰ったんですが、これは、非常に、法世さんの博多っ子純情を読んだ、そのー、なんか非常に違う部分でね、チューリップが何かこう、完全に作ってる感じがして、なかなか素敵な曲だなーと思うんですが。博多の思い出と言うか、えー、何才までいられました?
法世 んーっと、高校出るまでいたんですけどね。でー、あと、出たり入ったりで。あのー、美術大学を受けようと思って、ちっとも受からずに、新聞配達をしたり、土方やったり、マンホールの工事やったり。
甲斐 それは、東京?
法世 ええ。東京でやったり、土方は博多でやりました。あのー、石堂川の川っぷちにあるでしょう。飯場が。よく焼ける所が
甲斐 ええ、あります。
法世 あそこに入り込んで行って、やらしてくれと言う。
甲斐 その頃っていくらですかね。
法世 日当が1000円でした。始めねえ、手を見られてね。手のひらを。柔らかいなーって言われて(笑)。力仕事できないじゃないかって。
甲斐 (笑)。それ、おかしい。
法世 900円ぐらいから始まったのかな?800円かな?最初は。
甲斐 僕は、高校の2年の頃に、港、築港(ちっこう)ってあるでしょ。築港でバイト、1ヶ月ぐらいやった時は、1500円。
法世 あのね、築港の方はよかったんですよ。1200円とかね。そのくらい。
甲斐 あれ、つらいですねー。
法世 つらいって聞いたからね、行かなかった。
甲斐 じゃあ、それでもう東京にずっと、それからいると。じゃあ、19ぐらいの時に東京に。
法世 ええ。出てきたのは、だから、最初に出てきたのは18。
甲斐 普通・・・・。あ、そうか。じゃあ、もう大学、美大ってのは、もう断念したと言うか、変な話。
法世 ええ、もう。全然だって、絵の具が買えないし(笑)。
甲斐 (笑)。
法世 マンガを始めたのはね、昔から漫画家にはなりたかったんですけどね。で、マンガを始めたのも、絵の具代の足しにでもなればと思って始めた訳よ。ところがやってみると、これはねえ、墨汁一色でいいんですよ。安いから(笑)。
甲斐 ああ、そうですか。でも、あのー、紙代があるでしょう。
法世 ええ。紙代だって、たかが知れてますもん。だって、油絵のキャンパスに比べれば。
甲斐 あれは、決まってるんですか?その紙って、マンガ描く紙って。
法世 いえ、自分で選んで適当に。模造紙で描いたりねぇ。
甲斐 はあ。ただ、インクがちゃんとはっきり出れば、もういいと。
法世 ええ。インクだって、墨汁とか黒インクだったら何でもいい訳で。鉛筆でも、濃い鉛筆だったら出ますけどね。
甲斐 本当に、知恵でもう描くと言う。いや〜、やっぱり技術もありますね。はっきりね。
法世 そうですね。知恵と言うか、僕はあの、マンガってのは、妄想を金に換えると言う。被害妄想とか言うでしょ。あの妄想ですね。マンガなんて、つまらん事ばっかり考えてる。それを金に換えると。これは楽ですね。
甲斐 (笑)。あの、あれですね。僕もそうですけども、あの、博多の人が東京弁で喋ると、絶対博多のニュアンスのまま喋りますね(笑)。それがものすごいおかしい。さっきから。話よってから(笑)。
法世 (笑)。
甲斐 ねえ、あれ、どうしてでしょうね。何か、センテンスとか、絶対守んないですよね。何か違いますね。チューリップの財津和夫もそうなんですよね。本当に。あの人、”自分で標準語で喋ってるつもりか”って聞いたらね、”俺はそうだ”ってね、全然違うのね、もうね。
法世 やっぱ違うでしょ。イントネーションって言うか、心の動きと、やっぱり言葉と合ってる訳でしょ。
甲斐 あの、博多弁が。
法世 だから、リズムなんかもそうだと思うんですよね。
甲斐 そうかいな(笑)。
法世 (笑)。チューリップとか甲斐バンドが受けてるのは、その辺の何て言うか、異国情緒みたいな。わからないけど、あれは博多弁で喋ったら、”あ、なんだ。方言の歌だ”って感じで。
甲斐 それはあるでしょうね。今日はなんか、たっぷり話したいんですよね。曲なんか、どうでもいいですね。さっきからね、顔見てるとね、いい顔してますね。何か。今日は、あのー、奥さんがお見えになってるんですが。奥さんでしょ?あの人。
法世 ええ、そうです。一応。
甲斐 すごい、評判なんですよね。財津和夫がすごいいいって言ってたんですよ。彼らのLPの、確か歌詞カードの字も、法世さんがやってて。
法世 ええ。その辺、何かやってくれとか言われまして。
甲斐 今、マンガ描いて、何年になりますかね。
法世 えー、ですから、もうかれこれ10年。10年はならないのかな。
甲斐 10年。
法世 ええ。10年近く。
甲斐 火をつけましょうね、ちゃんと。今、法世さんが、タバコ取り出したので、火をつけます、僕ね。これが火をつける音です。その間に、曲を行きましょう。


♪「思い出が手を振る」海援隊


甲斐 あのー、ちょっといろいろ話してたら、やっぱり、なんかこう、あの、貧しくて、福岡にあまりいい思い出がなかったとか言う話を、チラっと聞いたんですが。
法世 そうですね。いい思い出って、その時はね。とにかくもう貧しいから、イヤだイヤだと思ってたでしょ。で、東京へ出てきて、出てきたのが、やっぱりその辺をふっ切りたいと言うね、新しく、自分の力で、こう、開拓するんだと。それまでは、まあ、貧しいのなんか、自分のせいじゃないとか思って、いい訳になるでしょう。その辺を、1人でこう、誰にもこう、自分の文句の言い所のないように、自分でやって行ってみようと思って。で、それで、東京で10年ぐらい暮らしてて、で、じゃあこのまま東京に住むのかって言った時に、まあ、職業的なもんでも、あの、やっぱり住まなきゃいけない訳ですよね。そしたら、ああ、あの博多にもう帰れないのかって言う、突然気がついた訳です。これは大変だって。
甲斐・法世 (笑)。
法世 なんか、逃げ出して来たって言うかね、捨ててきたと言うようなね、所もあったんだけどね。いざ帰れないって言ったら、これはもうちょっと、あのー、待てと。それでもう一度・・・。
甲斐 マンガで言えば、”ハテナ”(?)と。マンガで言えば。
法世 こう、愕然としてね。もう一度見直してみようって。それで、まあ、自分が突然に、戻れないんだったら、せめてマンガだけでもね、やってみたいって言うか。
甲斐 ああ。僕もわりとそう言う部分ってものすごいあるんですよね。僕、本当に、あの、歌を歌うなら、絶対東京しかダメだと思った所って、ものすごい昔あって。で、あのー、たとえば、福岡で昔、あの海援隊の武田鉄矢、今ちょっと聴いて貰いましたけどね、武田鉄矢が昔、福岡で文化作るって、すごい言ってた時に、僕はもう腹の中で、非常にいや、東京でしかダメなんだみたいな事をすごい思ってたのね。で、武田鉄矢って言うのは昔、ジャックスをすごい歌ってて。その武田鉄矢のある部分で非常に育ってる所ってものすごい僕、あるんですよ。はっきり言って。あの人が、ボロボロ、ボロボロ、なんか落ちこぼれさしたような部分をね、僕がこう、ちっちゃな部分を、パーっと一生懸命拾い集めてたような時期があって、その頃、僕は中学生で、彼は大学ぐらいの時なのね。だから、かなり年が違うんですが(笑)。まあ、それはいいか。それでね、やっぱり俺はねー、あの、日本の文化って、中央集権でしょ?だから、相手の懐に飛び込んでやるならね、相手の懐に飛び込んでやりたいって言う部分が、僕は非常にあって、だから、僕も本当に、あのー、福岡に帰れないもどかしさみたいな部分って、僕は完全に僕もあるんですよね。ものすごく帰りたいのね。でも、自分のやりたい事を、あそこに行ったら、いい人達だしね、みんな。まわりが。いい気候だし、魚はうまいし、ものすごくいいでしょ?だから、ああ言う非常になんかこう、非凡じゃない所ね。平凡な場所って言う部分ってのは、やっぱりなんか僕には合ってないんじゃないかって部分が、僕ものすごくあったんですよね。だから、よく自分の番組の中でね言うのは、もう、帰りたいけど帰れないとかね、戻りたいけど、俺はこの街に一生住むみたいな部分ってのをポロっと言っちゃう時、時々あるんだよね。
法世 また、だからこそ、あの、博多がいいと。
甲斐 そう。余計募ると言う。胸に募る想いですね。いろんなあのー、何か9年か10年近くですか、描いてて、いろんな主人公が、法世さんの中でたくさん生まれたと思うんだけども、やっぱり愛着はありますか?博多っ子純情。
法世 やっぱり、博多っ子はねえ。郷六平(ごうろっぺい)ってのが一番愛着ありますね。
甲斐 あの人は、だけど、法世さんの手で描いてるんだけども、法世さんの手から、完全にもう離れてやってる感じしますね。ものすごく、自由に生きてる感じがして。
法世 あれはねー、勝手に生きだして困るんですね(笑)。
甲斐 あのー、何か今、左肩壊してどうのって話があったんだけども、普通の人って、ペンだこできるでしょ?
法世 そうなんですけどね。僕は出来なくてねぇ。でね、だから、何でだろうと思ってたら、肩が壊れちゃったんですね。それがね、3年か4年ぶりに博多に帰ったんですよ。3年前ぐらい前かな。その時に1人で帰って、女房に来いって言ってね。荷物持たせようと思ってたらね、来ないんですよね。自分は箱根で麻雀大会やってて。それで、自分で1人で、あのー、バックさげて行ったら、それでぶっ壊れちゃったんですね。
甲斐 肩が。
法世 ええ。そんな重いものでもないのね。着替えだけ入ってるぐらいのやつで。
甲斐 そんなに柔らかいですか。
法世 ええ。
甲斐 曲目を破ったんですが、いいや。法世さんが、ちゃんと手伝ってくれる。あ、ランディ・ニューマン。そうですか。「ショートピープル」


♪「小さな犯罪者」ランディ・ニューマン


甲斐 えー、「ショートピープル」と言いましたが、これは「小さな犯罪者」ですね。間違えました(笑)。えー、僕は、あのー、昔、本当に、貸本屋の時代で育ってて、その前に、うちの一番上の兄貴が、少年と言う月刊誌を、創刊からとってまして。僕は、マガジンとサンデーの創刊からとってたんですよね。すごい薄っぺらな時で。
法世 そうですね。30円くらいで。
甲斐 25円か30円ぐらい。
法世 25円かな。
甲斐 ええ。それぐらいの時で。だから、あれー、何かもう、マンガに対する思い入れみたいなのって、僕ものすごくやっぱり強いですね。自分で、小学校の時に、あの、ヒラマツと言う、今、石森章太郎のアシスタントになったと言う、風の噂で、何かこう。本当かどうか知りませんが。そいつとマンガ描いてたりしてたんですよ。あのー、さいとう・たかをと言う人がいて、僕はその人で最初たぶん育ったような所があって、やっぱり。
法世 台風ゴローとか。
甲斐 台風ゴローシリーズとか、アリカワエイジと言う人がいまして、アイアンマッスルシリーズとか、完全紳士シリーズ(?違うかも)いろいろあったんですが。何かこう、非常に
劇画っぽい所で育ったんですが。法世さんの見ると、タッチしっかりしてるでしょ。マンガ。
法世 しっかりしてるって。
甲斐 マンガ、ものすごく劇画っぽいでしょ。本当は。怒侠原野(どきょうげんや)とか、あの辺見ると。
法世 そうですね。ああ言う劇画っぽいと言うか、あのーリアルなマンガってのは好きですね。って言うのは、やっぱりあのー、もうひとつマンガの他に、本当にやれれば映画をやってみたいって言う所もある訳ですね。
甲斐 ああ。歌ってる人もそう思ってる人が多いんですよね。
法世 なんか、共通するんですね。
甲斐 映画っていいですね。
法世 映画はいいですね。
甲斐 あのー、ずっとやっぱり、好きだった漫画家の人なんていると思うんですが。
法世 やっぱり僕は、手塚治虫さんですね。
甲斐 最初ずっともう。
法世 ええ。それともう大分前に亡くなったけど、フクイエイイチさんて方が、あの、いがぐりくんとか。あの方の、あの博多っ子純情なんてのは、あの方のあのー何て言うかな。いがぐりくん。でも、ものすごくあの、庶民的なって言うかね。あのー普通の生活の部分がある訳ですよ。家族のその辺がやっぱり。
甲斐 あります。柔道の人でしょ?
法世 ええ。
甲斐 あ、思い出しました。ありました(笑)。あ、そっか。
法世 それとね、僕は映画がいいってのはね(笑)やっぱり、あの、金をかけてるからいいって(笑)。
甲斐 (笑)ちょっと。(ガタンと物音)メガネ落ちました(笑)
法世 (笑)あのね、あのマンガもね、さっき言ったように、妄想なんですよね。煩悩とかで、宗教で言えば妄想って言うのは、あの、えー、自分の中から追い出せと言うような部分をね、一生懸命育ててねやる訳で、仕事にする訳です。映画もねぇ。発想はそれだと思うんです。ハリウッドなんて、特にそうだと思うんですね。
甲斐 うんうん。そうですね。
法世 あのー、宇宙へ行こうって、スターウォーズ、何十億もかける訳ですよね。まあ、それでも低予算らしいですけどね、あちらで言えば。だから・・・。
甲斐 低予算ですか(笑)。
法世 ええ。金のかけ方が、映画とマンガでは全然違う。もう、マンガなんて、紙の上に墨でしょう。日本的な、なんか仕事かも知れないですけどね。
甲斐 アメリカとか、いわゆる外国ってのは、マンガってのはあるんですか?
法世 ええ。やっぱりありますね。コミックス。
甲斐 コミックスとか。でも、違いますね、非常にやっぱり日本のマンガって、あれは、手塚治虫がたぶん作ったと思うんだけども、その、何かものすごくカメラのショットに似てるでしょ。
法世 そうですね。
甲斐 あ、たとえば、スヌーピーとチャーリーなんか見てると、もう、ワンショットで同じ角度から、ただマンガが進行してるって言う感じだけど、日本、違いますよね。何かね。
法世 やっぱり、手塚さんの中にも、映画作りたいって所がすごくあったと思うんですよね。あの、映画面白いって言う所。だから、その辺の思い入れがやっぱり入ったんだと思いますけどね。
甲斐 斜めになったり、こう、下から撮ったり、何かすごいですね。あれね。映像的で。法世さんってのは、たとえば、シビアなマンガ描くとね、そう言う感じがするんだけど、博多っ子純情なんか見ると、その非常に2ショットふらいで、あの、1カメ、2カメぐらいしかない感じがしますね。あれ。
法世 そうですね。あのー、やっぱり作品によって違うと思うんですよ。そのー、いわゆる普通の生活を描く、博多っ子みたいなのはね、きどったカメラワークって言うか、構図みたいなの、とってもね、かえってリアリティーなくなっちゃうし。あの、僕は、あれは普通の庶民的な生活を、そのまま描いてみたい。だから、あの、主人公の六平にしても、スーパーヒーローみたいにしたくない。だから。
甲斐 ああ、いわゆる日常の中の。
法世 それが、だんだん、こう、ストーリーの中で喧嘩して行って、強くなって行って、これはものすごい強い男じゃないかとか思いだしたりするとね、困るんですよね(笑)。
甲斐 (笑)うん、わかる、わかる。そんなヒーローチックになられると。わりとあのー、歴史もんどうのって言うと、かなりこう、何かきつくなるでしょ。いろいろ、あれだから。そう言う時代を、完全に超えたような部分って言う所でね、歌を歌いたいみたいな所、ものすごく僕はあるんですよね。だから結局こう、男と女の歌とかラブソングみたいな所に行っちゃうみたいな部分って、ものすごくあるのね。それはやっぱりマンガにもあります?
法世 うん。ありますけどね。歌はねぇ、あのー、何て言うか、もっとこう確信をつけるんですよ。男と女の話とかね。あの、女の子がね、サンダルを履いてるとか、下駄を履いてるとかね。それは、あのー、女の子の心情とか、その女の子を表す為の、本当に小道具でいいんだけど、マンガの場合は。
甲斐 全部描かなくちゃいけない。
法世 全部描かなくちゃいけない。
甲斐 ああ、そうか。
法世 その背景にあるものも描かなきゃいけないと。だから、その絵で見せられるからいいって言う所はあるけども、見せなきゃいけないって所も出てきてね。無理してね。
甲斐 ああ、そうね。
法世 見せたくないのに。
甲斐 見せたくないのに。本当は、顔だけで言ってる事でいいだけども。
法世 だって、顔だってね。本当、美人じゃなくていいんですね。惚れると、恋は盲目とか。
甲斐 言います。
法世 言いますね。
甲斐 それは言えますね。
法世 だから、あのー、また自分のマンガの話だけど、博多っ子純情で、小柳類子(こやなぎるいこ)ってのを出して、やっぱりかわいく描かなきゃいけないんですね。
甲斐 どっかで。
法世 あんまり僕は女の子ってのはうまくないんですけどね。それでも、かわいく描かないと。
甲斐 でもー、あの人ねぇ、僕ものすごく思うのは、あの人生きてるんじゃないかと思う時あるのはね、気分悪いこと言うでしょ。あの人が、すごい小柳類子って人が。ものすごく気分悪く見えるのね。あの人の顔って。最初出て来た時に、すごいイヤな顔、あの手の顔は嫌いなんですよ。僕。嫌いだなって思ったんですよね。顔が。でも、どんどん、どんどん、よく見えてくるのね。あれはもう完全になんかすごい生きてる感じがして。したんですよね。
法世 だからあれは、何か本当に映画で、美人の役者さんがするような役じゃなくてね、本当に、脇役になってる方にやって欲しいようなって言うかね。そう言う感じ、あのー話で始まったんですよね。僕自身も、小柳類子描いてて、すごくイヤになる時、あるんですよね。こう言う女か(笑)。
甲斐 (笑)自分で言ってる。
法世 本当にいたら、俺はパスだって言う(笑)。でも、一瞬すごくこう、かわいく、自分で言うのもおかしいけどね。かわいくなったりする時もある。それが女だろうって言う時ある。思うんですよね。美人でも、あの、すごく醜く見える時もあるだろうし、で、あのー、マンガは庶民のマンガだから、あの、庶民生活のマンガだから、やっぱりブスの方を描いた方が、それが一瞬きれいに見えるとか、そう言う所の感動みたいなのを追っかけて行きたいな。
甲斐 トム・ウエイツの曲を聴いた後に、イッセイさんの、あ、法世さんの女性観みたいなのを聞こうと思います。それでは、いざ。


♪「   ?   」トム・ウエイツ


甲斐 どうしてこの曲の後に女性観の話をするか、と言う話があって(笑)。えー、昔、初恋なんかした時の女の子って言うのは、どういう人でした?
法世 んとね、あれがやっぱり、小柳類子的だなぁって気もしますね。
甲斐 ああ、やっぱり男はそんな所ありますね。
法世 うん。それとねぇ、えっと純情でしょ?こっちが。どう見ても、男の方が純情ですよ。女の子より。
甲斐 ああ、そうですか。いろんな、たとえば、博多弁なんかで、物語描いたりするとね、あの、忘れてた事を、ボロボロ、ボロボロ引きずってきてて、思い出したりするでしょ。
法世 ええ。
甲斐 やっぱりあれは、こう、たとえば、博多弁のまあ、言葉にしてもね、博多弁語録とか言うのをちゃんと。
法世 ええ。一応方言集とかね。あのー、その辺の資料は集めてやったりしてますね。わかんなくなる時あるんですね。これは方言だろうか、あの、博多弁だろうか。
甲斐 ”つや”っていうのは、標準語にはないですね。
法世 ええ。
甲斐 僕はね、これ、いつも言うんです。人と喧嘩する時、”つや”って言うのは、博多弁の最高の言葉ですね。”おまえ、つやにしとう”。あれは、標準語で言うと、キザとか・・そうですね、いやらしいとか・・・あの、ないんですね。かっこよすぎる。キザな。で、”もう、おまえ、つやにしとうね、この頃”ってのは、一番ぴったりですね。博多弁にしかない部分て言うのはものすごくあるでしょう。
法世 そうでうね。あのー、また、女の子の話になるけど、あの、一番僕があの、気に入ってるのはね、気に入ってるって、今、使ってる人、いないのかなー。女の子がね、その、男なんかが、こう、どうのこうの言うとね、”いわっしゃー”って言うでしょ。
甲斐 (笑)あ、言う言う言う。”わ〜い、いわっしゃー”って(笑)。
法世 あれが好きなんですよ、あれは東京なんかで、今の若い子みんな、”よく言う”とか”よく言うわ”。
甲斐 ”よく言うわね”って。
法世 なんか、年寄りでも年上でもね、何にでも言う訳ですよ。
甲斐 あー、そうかそうか。急に・・・・うん。わかるわかる。
法世 ”よく言う”ってねぇ、”いわっしゃー”って言うのは、”言われる”って言うあの・・。
甲斐・法世 敬語が入ってる。
法世 敬語が入ってるでしょ。
甲斐 ああ、そうそう。
法世 それはね、どんなに強く言っても、入ってる訳なんですよ。
甲斐 うん、入ってる、入ってる、入ってる。うん。
法世 だから、それが好きでね。あのー、いつか小柳類子に、決まりの言葉として言わせようと思ってるんですけどね。
甲斐 ”いわっしゃー”ってのは、敬語入ってますよね。丁寧語で。こんなの、わかるんですかね。こう言う、全国的な放送で(笑)。これ聞いてる東京の人も、言いたい事、いっぱいあるでしょうね(笑)。本当に。
法世 江戸っ子純情、描いて欲しいですよ。
甲斐 えー、長谷川法世さんは、この後きっと僕と一緒に酒飲みに行くと思いますが。えー、近いうちにまた来てもらいます。今日は、すごい固い放送でしたが、酒飲んだ後に、人間がどう変わるか、二人がと言う事を、今後、実証してみたいと思います。本当に。
宛先を言わなくちゃいけないんですが。言うんでしょ?これ。郵便番号150渋谷区神南NHK金曜日甲斐よしひろの係りまで、ハガキをください、と言う感じで。えー、今日はちょっとなかなか面白いんじゃないかと、勝手にマスターベーションしております。あのー、がんばって描いてください。
法世 はい。どうもありがとうございます。
甲斐 僕は、あの、ああ言う感じでね、あのー、主人公が、描いてる人以外に、バンバン動いて行くマンガって言うのは、とっても素敵なマンガなんじゃないかと思ったりするんで、また、この番組にいらしてください(笑)。
法世 ええ。飲み、行きましょう(笑)。
甲斐 (笑)。



閉じる